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登進研バックアップセミナー77・講演内容

 

事例に学ぶ「中高一貫校で不登校になったとき」

2011年6月18日に開催された登進研バックアップセミナー77の第2部「事例に学ぶ 中高一貫校で不登校になったとき」の内容をまとめました。

 

講師

南田 恵子(子どもの不登校を経験したお母さん/仮名)

齊藤 真沙美(世田谷区教育相談室心理教育相談員)

荒井 裕司(登校拒否の子どもたちの進路を考える研究会代表)

司会

池亀 良一(代々木カウンセリングセンター所長)

 

◆息子は「みんなと同じ公立中学校に行きたい」と言ったのに…

     

池亀

 今回は、事例に学ぶ「中高一貫校で不登校になったとき」をテーマに、さまざまな事例を取り上げながら、中高一貫校における不登校の特徴とその背景、中高一貫校で不登校になったときの親の気持ち、子どもの気持ち、親の対応などについて考えてみたいと思います。
 中高一貫校がテーマということで、「うちには関係ないわ」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、他の学校への転校を考えるときのポイントや親のかかわり方など、不登校に悩む親御さんにとって役立つ内容がたくさん盛り込まれています。
 最初に、息子さんが中高一貫校で不登校になった経験をもつお母さん、南田恵子さんから、息子さんが不登校になるまでの経緯、きっかけなどについてお話を伺いたいと思います。

南田

 私の息子は、中1の2学期から学校に行けなくなりました。最初は、「少し疲れているのかな」という程度に考えていましたが、担任の先生から、家を出ても登校していないことがあるという連絡があったりして、「どうして?」と思う反面、「やはり」という思いもありました。
 思い返すと、息子は小学校のときから塾に行く時間になると微熱が出たり、「中学受験はしたくない」「みんなと同じ公立中に行きたい」と言っていました。それを私が「中高一貫校に行くと、あとがラクだから」と、実際にはそうでないことはわかっていましたが、軽い気持でそう言ったことで、息子も納得し、受験に舵を切り、幸い志望校に入学できました。
 ところが、入学してみるとラクになるどころか、まわりの生徒はみんな必死に勉強していて、学校以外に塾にも通っているし、休み時間でも勉強している子がいる。そういう状況を目の当たりにして、息子は「話が違うじゃないか」と思ったようです。それまでは、親の言うことをきいていれば、たいてい問題なくやって来れたけれど、そこで初めて、「親にだまされたんじゃないか」と思いはじめ、親に対する不信感も重なって、すべてのことが信じられなくなったようです。そのうえ、小学校時代の友だちはまったくいないし、通学時間も長いし、体も疲れるし……ということで、徐々に学校に行かなくなったようです。
 そういう息子を見ていて、私は非常に歯がゆい思いをし、はっきり言えば、腹立たしくもありました。最初はひきこもることもなかったんですが、中1の12月頃からひきこもるようになりました。そのときは、冷や汗の出る思いでした。ただ、担任の先生が、とてもよく気をつかってくださって、家庭訪問によく来てくれました。そのときは息子も部屋のカギを開けて、先生と話をしたりしていましたが、最後のほうにそれが度重なると、先生にも会わないことがありました。

 その頃は、夫が単身赴任中だったので、自分のもやもやした気持ちをどこにぶつけたらいいのかわからず、家の中が暗くなっていました。とりあえず、担任の先生の家庭訪問などを頼りにしつつ、中学3年間はその中学校で過ごしました。
池亀  お子さんが不登校になった直後の気持はどうでしたか?
南田

 息子の将来を考えたとき、学歴も必要だし、できればいい大学にも入ってほしいと思っていました。ですから最初のうちは、どうしてうちの子だけがレールに乗れないんだろう。大多数の子どもたちはレールに乗っているのに……と歯がゆい思いでした。口には出しませんでしたが、私の体全体から息子を否定するような雰囲気があふれていたと思います。

池亀

 親としてどんなことを考え、どんなことが不安でしたか?

南田

 子どもの気持がわからないので、「この人はどうなっていくんだろう」「この人の人生はどうなるんだろう」という不安が大きかったと思います。カウンセリングや病院に連れて行ったほうがいいのか、私が相談に行くだけでいいのかと悩んだこともあります。結局、最後まで本人はカウンセリングを受けませんでしたが。
 「いつまで続くのか」というのも不安なことのひとつで、どうしてあげればいいのだろう…という感じでした。

池亀  「いつまで続くのか」という不安は、みなさん感じておられることだと思います。よくカウンセラーなどから「見守ってあげてください」と言われることがあると思いますが、いついつまで見守ればいいと期限がわかるなら待てるけれど、暗いトンネルに入ってしまったようで、先が見えない。そういう状態が、お母さんお父さんにとってはいちばんの不安かなと思います。 

◆「せっかく入った学校だから」という思い

 

池亀

 南田さんのお話をふまえて、荒井先生、最近増えている中高一貫校における不登校の背景にはどのようなものがあるとお考えですか?

荒井

 最近、私立の中高一貫校への進学を希望されるご両親が増えています。なぜ増えているかというと、先ほど南田さんがおっしゃったように、「あとがラクだから」、つまり大学進学にも有利だし、勉強もしっかり指導してくれるということで、ご両親にとっては、それが大きなメリットと感じられることでしょう。公立の中学校や高校に対して「あまり期待できない」と感じているご両親が多いことから、私立中高一貫校の人気が高くなっている状況もあります。
 ただし、中高一貫校では大学合格実績が非常に重視されますから、その結果、ハードな学習指導体制が敷かれ、毎日毎日テスト漬けで、常に成績が問われる状況に置かれる場合も多くなっています。
 そのなかで、南田さんの息子さんのように「話が違う」と感じたり、成績のプレッシャーに耐えられない子、自信を喪失する子、成績重視の学校に不信感を抱く子などが出てきます。あるいは、その学校に入ることを唯一の目標にして頑張ってきた子が燃え尽き症候群のような状態になったり、親子の中学受験に対する考え方のズレがあらわになる場合もあります。こうして徐々に学校に行きにくくなり、ついには不登校になってしまうわけです。南田さんの息子さんは、超難関校といわれる私立中学校に入学したことからプレッシャーもかなり強かったと思います。
 中高一貫校における不登校は、普通の公立中学や公立高校でも不登校に比べて、深刻化しやすい傾向があります。「せっかく入った学校だから」と、親も子も「なんとかここで頑張りたい」と問題をこじらせたり、勉強の遅れに対する不安感も公立校とは比較にならないほど強いものがあります。

 また、中学段階で欠席が多いと、高校への内部進学が認められないことから、休むことへのプレッシャーもより強くなります。さらに、私立受験をした子が不登校になったとき、地元の適応指導教室などには通いにくい。小学校の同級生などと顔を合わせる可能性があるからです。そのため、家以外に居場所がないという状況になりがちです。

 以上のような理由から、中高一貫校における不登校が増加しており、また、往々にして深刻化しやすいということがいえると思います。
池亀
 南田さんの息子さんは私立中学で不登校になり、ずっと欠席したまま3年間在籍していたわけですが、荒井先生、このようなケースは多いのでしょうか?
荒井

 めずらしいケースではありません。先ほど申し上げたように、親も子も「せっかく入ったのだから、なんとかここで頑張りたい」と思うことが多く、学校側もせっかく入った生徒ですから、なんとか復帰させたいと思って、家庭訪問を続けたり、クラス替えをしたり、いろいろ対応しますから。
 しかし、高校に入る段階になると、結局は「内部進学できません」と宣告されてしまうわけです。その段階、つまり3年生になって内部進学の希望が絶たれた段階で、他の学校に転校(転入)するケースは非常に多いと思います。

 それ以前の1年生や2年生の段階で、「もうこの学校にいてもダメだ」と判断し、地元の公立中に転校するケースもありますが、なかなかうまくいかない。中学受験に見事合格し、みんなに祝福されて入学した学校をやめて、またみんなのいる学校に戻ってくるわけですから、プライドが大いに傷つきます。そのため、公立中に転入しても、結局行けないという状況がよくみられます。

 


◆頑張って入った学校に行けなくなったショック

 

池亀

 齊藤先生、中高一貫校で不登校になったときの子どもの気持ちはどのようなものなのでしょうか?

齊藤

 まず、中学受験をするお子さんの多くは、小学校3〜4年の頃から受験塾に通い始めます。土日も模擬試験を受けに行ったりします。小学校時代は好きな水泳をやってのんびり過ごしていた私などからみると、びっくりするほどの過密スケジュールです。こんなに頑張って入った学校に行けなくなってしまうというショックは、かなり大きいものがあるでしょう。
 とくに、「自分はこの学校に行きたい」「ここでこんな中学生活を送りたい」と夢をふくらませ、当初、合格は難しいかもといわれた難関校に、強い意思をもって必死に勉強して合格したようなお子さんは、なおさらショックが強いと思います。
 また、先ほど南田さんからお話がありましたが、本人はそれほど乗り気ではないけれど、親御さんの強いすすめで中学受験を決めたというケースがあります。このような場合、そのときは何も言わなかったけれど、入学して通えなくなって初めて、「本当は受験なんかしたくなかった」「お母さんがすすめるから受けたんだ」と言い始めるお子さんが多いように思います。
 ちょうど思春期(反抗期)の入口でもあり、強く自己主張をしはじめる時期ですから、よけいに「自分は行きたくなかったのに」「だからこうなったんだ」という怒りの感情が大きくなる側面もあるかと思います。
 さらに、第一志望に受からず、やむなく滑り止めの学校に入った場合、「自分が思い描いていた学校と違う」「自分が行きたいのはここではなかったのに…」という後ろ向きの感情を抱きながら学校生活がスタートすることになるので、その学校に登校できなくなると、そういう感情が一層大きくなると考えられます。

 転校については、荒井先生からお話があったように、地元の公立中学に戻るのは本人にとって非常に抵抗が大きいので、転校するにしても学区を変えるとか、地元から離れた学校に通うといった選択肢を考えていくことになるかと思います。

  

◆タイミングを見計らって新たな進路を示す

 

池亀 

 親御さんのほうの気持ちはどうでしょうか?

齊藤

 親御さんのほうも、それまで中学受験にかなりの労力を注いで、協力してきています。塾の費用はもちろん、塾への送り迎え等々、子どもが希望する学校に合格できるよう精一杯頑張ってやってきたところで、行けなくなってしまった。そのショックは、お子さん同様とても大きいものがあります。
 ただ、欠席日数が増えてくると、内部進学ができないとか、高校生の場合は単位不足で留年になるといった物理的なリミットがあるので、親御さんのほうは、このままこの学校に残るか、それとも転校するのか、早く決めなければいけないという焦りが出てきます。
 一方、お子さんのほうは、当初は不登校のショック、悲しみ、怒りといったさまざまな感情で頭が混乱状態になっています。その後、少しずつそうした感情を整理して受けとめるという作業をくり返していくなかで、しだいに準備が整い、ようやく動き出すという段階に進んでいきます。
 その間、親御さんは焦りの感情を抱きつつも、いろいろな情報を集めておいて、お子さんの様子を見ながら、タイミングを見計らって新しい進路を提案し、一緒に考えていく必要があるでしょう。これらの段取りは、中高一貫校に限らず、どのケースでもとても大事なことだと思います。


 

◆母親がパートに出たら昼夜逆転がなおった

 

池亀
 南田さん、お子さんへの対応で気をつけていたことはどんなことですか?
南田

 私も混乱していましたので、とくに気をつけていたこと、心をくだいていたことはなかったかなという気がします。
 ただ、それまでは比較的育てやすい人だったので、息子の気持ちがわからなくなってしまって、息子の言ったことをメモしたり、しょっちゅう「どうして?」「なんで?」と問いつめて、息子に答えを求めるようなことをしていました。
 ひきこもり状態が一段落してからは、普通に外出したり、散歩したり、外食したりして、ふたりでプラプラしていましたが、やはり街で元気なお子さんを見かけると気持ちは複雑で、イライラしたりしていました。
 よく見守るだけでいいといわれますが、とても見守るだけなどということはできなくて、「どうして?」と詰問してばかりいたことを思い出します。

池亀
 親として、かかわりの転機になったことがあれば教えてください。 
南田

 私にとっての大きな転機は、息子が中1の2月頃にパートに出るようになったことです。子どもがこういう時期に勤めに出るのはどうかなと思って、中学の担任の先生や実家の母と兄、主人にも相談して決めました。担任の先生には、「ぜひ、出てください」と言われました。
 勤めに出始めると、昼間、私が家にいないので、それまで昼夜逆転していた息子の生活が徐々に直ってきたようです。ただ、私が出かける前と帰る頃には、部屋にこもっていますので、「食事は冷蔵庫に入れてあるからチンして食べてね」とか「元気にしてますか?」「体は大丈夫ですか?」といったメモを残しておきました。
 なんてことのない他愛のないメモですから、当時はなんの反応もありませんでしたが、あとで聞くと、息子はそのメモがとてもうれしかったそうです。親が見捨てていないということが、そのメモから感じられたのかなと思っています。
 そうこうしているうちに息子がだんだん部屋から出てくるようになり、私も仕事のほうに神経をつかって、あまり息子にかまわなくなりました。息子がどうしてこうなったのかといったことも、ほとんど考えなくなりました。体力的にも余裕がないので、出かける前には「トイレとお風呂の掃除してね」「洗濯物を取り入れてね」と頼んでおくとやってくれるようになり、ずいぶん重宝したように思います。

 正直にいえば、私も苦しかったので、その状況から逃げ出したいという気持ちがありました。そこに渡りに船ではないですが、パートの話が来て、それに乗ったわけです。ですから、積極的な考えでパートに出たわけではないのですが、結果的に、いい転機になったと思っています。
池亀
 よくお母さんから「働きに行ったほうがいいでしょうか」と質問されることがあります。そのとき、私は「お子さんに聞いてみてください」と答えます。お子さんに聞くと、だいたい「いいよ」と返事が返ってきますが、なかには、「お母さんが家にいないとさみしい」「こわい」など、働きに行ってほしくないというお子さんもいます。その場合は、そこでまた考えればいいわけで、迷ったら、まずはお子さんに聞いてみるといいのではないかと思います。

 

◆「救いの手が降りてきた」

 

池亀

 南田さんの息子さんは、中学卒業まで不登校状態が続いたわけですが、高校進学についてはどのような対応をされたのでしょうか?

南田

 中3の間はひきこもることもなく、主人も単身赴任から戻ってきたので、おかしな話ですが、3人で楽しく暮らしていました。今でも楽しかったなあと思います。それは、私が「どうして?」と聞かなくなったことが影響しているかと思います。その反面、この人の人生はどうなるんだろうというのが大きな不安でした。
 勉強もまったくしていないので受験はできませんし、内部進学もできないでしょうし、させるつもりもありませんでした。そのことをいつか本人に話さなければいけないなと主人と相談していた頃、担任の先生が来てくださって、現在の状況や、内部進学はできないだろうことを息子に伝え、「自分のこれから先のことを腰を落ち着けて考えたほうがいい」とアドバイスしてくれました。
 私たちも今後の進路について考えていたときでもあり、ちょうど新聞にサポート校の紹介記事が載っているのを見つけて、主人と息子と3人で何校かサポート校の見学に行き、最終的に息子が「ここがいい」と言ったところに決めました。
 担任の先生が息子にアドバイスしてくださったのをきっかけに、やはり親が先導してしまったんですが、あとで息子に聞いたところ、もともとあまり積極的なタイプの子ではないので、「救いの手が降りてきたように感じた」と言っていました。

 ものすごい不安はあったけれど、今この話に乗らないと自分はダメになってしまうんじゃないかという恐れがあったそうです。そういう息子の気持ちと私たちの気持ちが、うまく重なったんだと思います。


 

◆答えを求めないやり方で、さりげなく情報を投げかける

 

齊藤

 南田さんにひとつ質問させてください。ご家族3人でサポート校をいくつか見学されたとのことですが、サポート校にしようと思った理由というか、どんなところが息子さんに向いていると思われたのでしょうか?

南田

 まず、サポート校ですと毎日行かなくてもいいというか、まあ、いいわけではないんですが、出席については比較的ゆるいということがあります。私たちは、とにかく息子が通えること、通い続けられることだけを第一に考えました。

 息子自身は、サポート校には不登校を経験した生徒がたくさんいるので、そういうことも話せるし、自分の気持ちが落ち着くんじゃないかと言っていました。
齊藤

 ありがとうございました。やはり息子さんの状態に応じたところを、きちんと見極めて選んでいらっしゃるんだなあと思いました。
 不登校の子どもたちのなかには、学校選びは自分のペースでやらせてほしいと、自分でインターネットなどを使って調べて、学校見学も自分で申込みをしてというように、親御さんの手助けなしにどんどん話を進めていける子もいます。しかし、それはあくまで少数派で、ほとんどのお子さんは何から手を付けていいのか、どんな選択肢があるのかすらわからない状況でしょう。
 ですから、情報については親御さんが動いて、資料を集めたり、学校説明会などに出向いたほうがいいのかなと思います。ただし、その情報を子どもの前に突き付けて、「ここはどう?」「こっちは?」「どこに行くの!」「行くの! 行かないの!」と答えを迫ると子どももしんどいので、タイミングが大事になってきます。
 このタイミングというのがなかなか難しくて、この時期にやれば誰でも成功するというタイミングがあるわけではありません。まずは、お子さんの様子を見ながら、たまに「こんな学校があるらしいよ」「こんな学校を見学してきたよ」と親御さんがつぶやいたり、学校の資料を目につくところに置いておいたりというように、子どもに答えを求めないやり方で情報を投げかけてみるといいでしょう。
 すぐには効果が見えてこないのですが、節目の時期が近づくと、親が言わなくても、本人もそろそろ考えなくちゃと思っていますから、こっそりその資料を覗いてみたり、お母さんがつぶやいた学校をネットで調べたりしはじめます。ここまでくれば、だんだんと「じゃあ、その学校を実際に見に行ってみようか」という話にもなってきます。
 ですから、いきなり「学校見学に行こう」「行ったほうがいい」といった誘い方ではなく、少しずつ情報を出していくなかで、子どもの反応を見ながら、子どもに動きがあったときに、「じゃあ、一緒に行こうか」という流れになるのが無理のないかたちかなと思います。
 学校の情報を提供するときには、ふだん情緒的な面でいろいろ関わっているお母さんが提案するのは難しい場合もあります。そんなときは、節目の時期にお父さんに提案してもらったり、南田さんのように学校の先生に伝えてもらうというのも手なのかなと思います。

 

 

◆出席を問われないから自分のペースで通える

 

池亀 
 ここまで「サポート校」という言葉が何度か出てきましたが、ご存じない方もいらっしゃると思いますので、ここで当研究会代表であり、サポート校の学園長でもある荒井先生に、簡単に説明していただきたいと思います。
荒井

 サポート校とは、ひと言でいうと通信制高校に通う生徒たちをサポートする民間の教育機関です。通信制高校は、自分のペースで学べる自由さがある反面、計画的・継続的に学習を進める自己管理が必要ですが、ひとりでコツコツと勉強するのは意外に難しいものです。そこをサポートするために、高校のカリキュラムに合わせて単位取得のためのレポート作成の指導をし、生活面の指導も行い、通信制高校卒業のための支援をするのがサポート校です。
 サポート校に入学した生徒は、同時に通信制高校にも入学しますが、授業や学校行事、クラブ活動、友だちとの交流など、高校生活の主体となる場(生徒が毎日通う場)はサポート校になります。単位は通信制高校のほうで取得するので、サポート校への出席は問われませんし、カリキュラムも柔軟に組むことができ、一人ひとりの状況に合った学習指導が可能になります。
 サポート校には、中学時代に不登校だった子どもたちが入学してくるケースが非常に多いのですが、それはこの「出席を問われない」「一人ひとりの状況に合った学習指導ができる」という点が大きな魅力となっているからだと思います。

 自分のペースで通学し、学び、一歩一歩自信を高めていくプロセスを、その子のペースに合わせてじっくりと粘り強く支援できるのが、サポート校という教育システムだと思っています。

 

 

*           *          *

 

◆事例に学ぶQ&A

 

池亀 
 ここからは4つの事例を取り上げ、それぞれのケースについて講師の方々に回答していただきます。これらの事例は、これまで行われたセミナーで参加者から寄せられたご質問のうち、時間の関係で取り上げられなかったものから選びました。プライバシー等の問題から、個人や地域が特定できるような情報は一部削除したり、内容を若干変更している場合がありますので、ご承知おきください。

 

事例1  中2の女の子。中3になってもこの状態なら高校への進学は難しいといわれたが…

 

 中2の女の子です。小学校6年のときにクラスが学級崩壊状態になり、学校に行けなくなりました。それでもなんとか頑張って、私立の中高一貫校に合格しましたが、まだ精神的に不安定なうえに、勉強についていくのも精一杯で疲れてしまい、中1の2学期の中間試験前からまた行けなくなりました。
 当初は部屋に閉じこもっていましたが、今は家族と一緒に食事をとり、普通に話ができるようになりました。ときどき今の不安な気持ちや苦しい気持ちを話してくれます。夜とか休日なら、家族と車で外出することもできるようになりました。
 先日、担任の先生から「中3になってもこの状態なら、高校への内部進学は難しい」と言われ、それを本人にどう伝えたらいいのか悩んでいます。
 頑張ってやっと入学した学校をやめるのは本人も残念だろうし、私(母)自身も、新しい学校でゼロからスタートするのは大変だろうなあとか、それでまた不登校になったらどうしようとか、やっぱり今の高校に進学できるように励ますべきなのか等々、迷いに迷って不安な状態です。

 どんな道を選ぼうと、娘が楽しく自分らしく生きていければいいと思っていますが、そのためにどう支えたらよいのかがわからず、悩んでいます。

 

もう少し様子をみて、その後の進路を考えても遅くはない(回答者:荒井裕司)

 

 まず、小学校6年生のときの学級崩壊は、とても残念で悔しい思いがします。そういう状況のなかで、とくにナイーブな子どもたちや素直でまじめな子どもたちが被害にあいやすいし、ショックを受けやすい。おそらくこのお子さんもショックを受けて、中高一貫校に入ってもそのトラウマに悩まされ、学校や教室のように人が大勢いるところが苦手な意識も払拭されていないのではないかという気がします。
 担任の先生から「中3になってもこの状態なら高校への内部進学は難しい」と言われているとのことですが、今はだいぶ気持ちが落ち着いてきているようですから、状況も少しずつ改善されていくのではないかとも思います。もう少し様子をみて、最後のギリギリまでねばって、その結果によって、その後の進路を考えても遅くはないでしょう。
 もしダメだとしても、道はいくらでもあります。「どんな道を選ぼうと、娘が楽しく自分らしく生きていければいい」と、このお母さんはおっしゃっていますが、私も本当にそう思います。娘さんが前向きに楽しく生きていけるなら、今の学校から別の学校に転校するという道もいいじゃないですか。
 いずれにしても、もう少し様子をみながら、時間をかけて娘さんの状況を判断し、話し合いをされるといいのかなと思います。

 

こんな気持ちで接していれば、少しずついい方向に向かう(回答者:南田恵子)

 

 お母さまの気持ちがよく書かれていて、非常によくわかります。娘さんの気持ちはわからないのですが、「どんな道を選ぼうと、娘が楽しく自分らしく生きていければいい」とお母さまが書かれているのは、とても立派だと思いますし、このようなお気持ちで接していらっしゃれば少しずついい方向に向かうし、いい結果が出るのではないかと思います。

 

事例2  週2〜3日、別室登校をしている中3の男の子。高校に進学できても通えるのか心配

 

 現在、中3の息子は、中高一貫校で中2の6月から不登校になりました。その後、週1回、別室登校を始め、今は週2〜3回のペースで通っています。
 最近は、別室ではなく、みんなのいる教室に行きたいという気持ちが強くなり、先日、1時間目だけという条件付きで、なんとか教室に入ることができました。しかし、前日の夜は一睡もできなかったようで、当日はぐったりと疲れた様子で帰ってきました。そして、やはり翌日は休んでしまいました。

 5月末に担任の先生から、本人の希望どおり高校への内部進学ができることになったと伝えられ、ホッとしています。ただ、今のような状態では、たとえ進学できても通えるのかどうか…。進学して、留年したり転校しなければならなくなったとき、受け入れてくれる学校やフリースクールはあるのでしょうか。

 

内部進学の準備を整える一方で、別の進路情報を集めておく(回答者:齊藤真沙美)

 

 「進学できても通えるのかどうか」という親御さんのご心配はもっともです。まずは、内部進学までまだ時間(現在6月中旬)があるので、そのなかでいろいろ準備を進めていけばいいのではないかと思います。息子さん自身も内部進学したいという気持ちが強いのであれば、その方向でできることをやっていきながら、一方で現在の学校以外の情報も集めておくといいでしょう。
 週2〜3回は別室登校をしているとのことですが、高校になると別室登校という位置づけが難しくなるかもしれません。そのへんのことも含めて、一度、学校側に確認や相談をされることをおすすめします。その際は、息子さんも同席して、高校での生活について一般に受けるような説明はもちろん、現在のような通い方だと高校では単位の認定が難しいとか、留年になるとか、卒業できない可能性があるといったことも、きちんと話をしてもらうといいと思います。
 あわせて、内部進学するとしたら、本人はどんなことが心配なのか、親御さんはどんなことが心配なのかを具体的に伝えて、学校で配慮してもらえることはお願いするといいでしょう。もちろん配慮にも限界がありますので、学校ができることできないことを明確にして、具体的・現実的にどうすべきかを検討しておく必要があります。
 そのうえで、「とりあえず、試しに高校に行ってみたらいいんじゃない?」という感じで、4月を迎えられるといいのかなと思います。これまで先生方のお話に出てきたように、選択肢はたくさんありますので、内部進学もそのひとつくらいに考え、親御さんもご本人も肩の力を抜いてやっていけるといいのではないでしょうか。
 一方で、進学しても通えない、もしくは内部進学はやめようと判断された場合、別の選択肢としてどんなものが考えられるかについてお話しします。
 まず、フリースクール。これは不登校の子どもたちを対象とした民間の教育機関で、施設の規模から指導内容まで、さまざまなタイプがあります。インターネットなどで調べて、問い合わせたり、見学に行ったりして、自分に合ったところを探すといいでしょう。
 また、学校をかわる(転入・編入)場合ですが、まず、受け入れ先の学校が決まってから退学することが大切です。とにかく今の学校をやめたいということで、受け入れ先が決まらないうちに退学してしまうと「編入」というかたちになり、たとえば高校1年の2学期で退学した場合、もう一度、1年の最初から(1学期から)やり直すことになります。

 一方、受け入れ先が決まってから今の学校をやめると「転入」というかたちになり、新しい学校でそのまま2学期から学習を続けることができます。
転入・編入試験の実施時期は学校や年度によっても異なりますので、直接、各学校にお問い合わせください。ただし、転入・編入試験の枠はかなり少ないのが現実です。
なお、先ほど池亀先生からお話があった通信制高校やサポート校の場合は、不登校の子どもたちを積極的に受け入れており、転入・編入についても随時相談に応じて、入学できる体制も整っています。
最後に、高等学校卒業程度認定試験についてですが、高卒資格が取れなかったとしても、この試験を受ければ高卒者と同等扱いとなり、大学も受験できます。たとえば、この資格を取るための予備校に通って勉強を続けるという選択肢もあります。
ということで、このケースに関しては、まず内部進学に備えて準備を整える、そして、一方で、別の進路に関する情報をできるだけ集めていただくといいのかなと思います。

 

事例3  高1で不登校になり、 「学校をやめたい」という娘をどう支えたらいいのか

 

 娘は中3の2学期から不登校ぎみになりましたが、幸い推薦で希望する公立高校に合格し、進学後は高校生活を楽しんでいる様子でした。
 ところが、5月の連休明けに、私(母)あてのメールで「朝、起きられないから学校をやめたい」と伝えてきました。本人に話を聞きたくても口をきこうとせず、その後も登校する様子はまったくありません。それから2週間ほどして、やっと会話ができるようになり、「自分が思っていた学校とは違う」「担任の先生と合わない」など、理由を話してくれました。

 今の学校に戻る道だけではなく、ほかの選択肢も含めて、今後の進路を考えていかなければならないと思っていますが、親としてどう支えてあげればいいのでしょうか。

 

「自分の娘なんだから、どんなことでも引き受けるよ」という姿勢で(回答者:荒井裕司)

 

 この事例は中高一貫校のケースではありませんが、多くのご両親が抱える悩みと共通する部分が多いと思い、取り上げました。
 このお子さんは、中3の2学期に不登校を経験しているということで、学校という組織や人が大勢集まるところがどうも合わないなあということを感じながら、高校に入学してしまったとすれば、現在の状態が長引く可能性もあるかもしれません。
 しかし、私たちも同じだと思いますが、小学校から中学校へ、中学校から高校へと入学したばかりの頃は、どの生徒も様子をうかがっていて、最初の頃は誰も本音を言わなかったり、ほかの生徒の言動を見たり聞いたりしてから、やっと自分の言いたいことを話し始めるといったことが多かったと思います。
 そういう意味では、このお子さんは、まだ学校に慣れない様子見の段階で、入学した高校が何か面白くないなあと感じたのかもしれません。私が入学した高校は進学校だったせいか、昼食のときも話もしないで全員が勉強をしていて、何とつまらない高校に入ってしまったんだろうと思ったことがありました。もちろん、行きたくなくなったときもありました。このお子さんも同じ思いをしているのかもしれないと思いました。
 ただ、このお子さんの場合、学校に慣れてくると少しずつ変わってくるかもしれないなあと思います。学校の様子が少しずつ見えてきて、クラスメートもだんだん本音を言い出したり、さまざまな学校行事を経験することによって、まわりの人たちの気持ちがわかってくると、変わってくるような気がします。
 まだ、高校1年生ですので、親御さんとしては、どういう状況になろうとも、たくさんの進路情報を集めておいて、どっちに転んでもいいように準備をしておくことが大切でしょう。そして、日常的な声かけをしながら、二度とないわが子の思春期をともに楽しみながら過ごして、「自分の娘なんだから、どんなことでも引き受けてあげるよ」といった姿勢で必要な情報は集めておくことが重要かなと思います。

 

事例4  「どうせ進級できないし」とやる気を失った高1の息子。今の学校で頑張るか、中退して通信制高校に通うか…

 

 息子は現在高校1年生で、中学のときから大学附属の中高一貫校に通っています。 中2の夏休み中、部活の顧問からいじめを受け、9月から不登校になりました。
 その後、少しずつ登校できるようになりましたが、授業は出たり出なかったりで、定期テストは毎回欠席。高校に進学できるか心配しましたが、なんとか高校に進むことができました。
 しかし、高校生活に前向きになれず、他校の不良っぽいグループ(学校をさぼってゲームセンターにたむろしているようです)と一緒に遊び歩き、帰宅時間が遅くなる日もたびたびです。それでも1学期の中間テストまでは、なんとか登校していましたが、家でまったく勉強をしないので、テストの成績も悪く、その結果、「どうせ進級できないんだし…」とやる気をなくして、また不登校状態になっています。このままでは、本当に進級できないかもしれません。

 本人は、今の高校を中退して通信制高校に通うか、今の高校で頑張るか、悩んでいるようですが…。

 

現在の在籍校で頑張れるかどうかの基準は?(回答者:池亀良一)

 

 子どもたちが現在の在籍校で頑張れるかどうかの基準になるのは、①親しい友だちがいる、②好きな科目の先生がいる、③好きな部活やクラブ活動があるなどで、学校の中に楽しいことを見つけられるかが大きなポイントになると思います。たとえば、友だちと休み時間や放課後に話したり、学校に行くと楽しいことがあるのであれば、学校に行こうというエネルギーがアップすることになるはずです。
 逆に楽しいことがまったくなくて、クラスの中で孤立しているといった状態になると、在籍校に残って頑張ろうという気持ちは弱くなってしまうだろうと思います。まして、進級も危ない状況になってくると、転入しようかと迷ってしまうのも無理はないかもしれません。
 ただ、ここで確認しておきたいのは、どの高校にも進級できるための基準があるということです。一般的に普通高校の場合、3分の1以上欠席すると出席日数不足となってしまうことが多いようです。高校の場合、科目ごとに出席日数が計算されますが、新学期から6月を過ぎて夏に近づいてくる頃になったら、欠席状況によっては、あと何時間欠席したら出席日数不足になるのかを先生に確認しておくことが大切です。
 さらに、科目ごとに設けられた合格点があります。たとえば、10段階の4を取らないと、その科目の単位が認められないなどの規則があります。ただ、不合格の点数を取ったとしても、追試が受けられる制度があったりしますが…。また、2科目以上、単位を取得できないと進級させないなど、学校独自の内規があるはずですので、その点についても担任の先生に確認しておく必要があります。欠席日数が規定を超えるタイムリミットと、成績が大丈夫なのかどうかを確認したうえで、そうした情報をお子さんに事実として伝えたほうが望ましいと思います。つまり、「進級するにはスレスレの状況だけど、頑張ってみる?」ということを聞いてみることが大切です。
 あるいは、まだタイムリミットまでは余裕があり、成績の点数も合格ライン以上に取れる可能性があるのであれば、できるところまでトライしてみてもいいのかなと思います。それでもこれはやっぱり無理だとわかったところで、新しい進路について考えてもいいのかなと思います。次の進路を考える場合の鉄則は、次の進路を決めてから現在の高校を退学する手続きをとるということです。
 自分で次の進路を探せない、探したくないお子さんもいらっしゃいます。そういう場合は、さまざまな選択肢があることを調べて、それを情報として提示してあげる必要があるかもしれません。気持ちが焦ってくると、親御さんは新しい進路情報の提供に際してフライングを侵す場合があります。情報提供のタイミングには、十分配慮が必要です。 
 もし、学校をかわって心機一転頑張ろうという場合は、以下の2点について配慮をしてあげてください。
1.  本人の不安、緊張、自信のなさをよく理解してあげる
 転入した新しい学校でも、また不登校になるのではという不安や心配を抱えているので、そうした気持ちを受けとめてあげることが大切です。
2.  親主導で学校選択をしない

 本人がなかなか動き出せない場合、親御さんは焦りから自分で選んだ学校に入れさせようとすることがあり、後々うまくいかないことも多いようです。結果的に本人が自分で選んだ学校だと思えることが大切で、入学後に少々大変なことがあっても頑張れることが多いのです。その際、親御さんが押したり、引っぱったりするのではなく、そばについてあげること、あるいは斜めうしろについてあげるというスタンスが望ましいと思います。

 

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池亀 
 それでは最後に、南田さんからみなさまにアドバイスをお願いします。
南田

 息子の不登校を経験して思ったことは、この人の人生を一時期、期待というプレッシャーをかけてもてあそんだのではないかということです。自分の価値観を変えなければと思ったこともありましたが、それは自分自身を否定することになるので、なかなかできませんでした。それで、自分自身を否定するのではなく、価値観を息子に押しつけないようにしようと思ったのです。それが息子が不登校のときに、私にできた唯一のことだったかなと思います。
 また、夫には、私を一度も責めることなく、自分たちの息子を信じようと一貫して言い続けてくれたことに感謝しています。やはり、家族が一緒になって乗り越えることが大事かなと思います。
 「きく」という言葉がありますが、「きく」には「聞く」「聴く」「尋く」「訊く」と4種類あるそうです。私は息子に「聞く」「尋く」「訊く」はよくやっていたと思いますが、「聴く」ことは、まったくできなかったように思います。それはとても難しいことで、耳を傾けて子どもの気持ちに寄り添うとか、共感することに近いと思います。共感というのは、「そうね」と言うことで共感できるような気持ちになっていくような気がします。

 とにかく子どもの気持ちを肯定してあげることができればいいんじゃないかと思っています。そのことによって、親は子どもにとって聴き上手な相手になってあげればいいかなと、この頃、思っています。今日はありがとうございました。

 

 

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