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登進研バックアップセミナー63・第二部・講演内容

子どもとの距離のとり方

今村泰洋

講師:今村泰洋(東京都教育相談センター主任教育相談員)

親は子どもの人生の代わりをやってあげることはできない

子どもが不登校になると、とくにお母さんは、子どもと一日中顔をつきあわせているような状況になりがちです。その結果、息がつまる、イライラする、どう接したらいいかわからないといった問題が出てきて、親として、つきあい方を考えなくてはいけなくなります。

子どもとのつきあい方は年齢によっても違いますが、小学生くらいだと、お母さんにベタベタくっついたり、甘えたりすることも多いかと思います。そうした接触をするなかで、子どもの気持ちや、何をどうしたいのかについて、いろいろ話ができることも多いでしょう。

 ところが、中学生や高校生など、思春期になるとそうはいきません。
よくあるのは、部屋にこもって何をやっているかもわからず、食事のときだけ部屋から出てくるといったケースです。また、話しかけても返事もしない、ちょっと何か言うと「ほっといてよ!」と怒鳴る、近づいただけで「うざい」といや~な顔をするとか、親御さんがカチンとくるような態度ばかりとる子もいます。
それでも親のパワーがあるうちは、なんとかやっていけるんですが、こういう子どもとずっとつきあっているうちに、親のほうのパワーもだんだん落ちてきます。

  私が相談で定期的にお会いしているお母さんは、「毎朝起こしに行っても起きないし、いつも11時ころに起きてきて、メシは何かあるのかと言うから作ってあげて、食べ終わっても、ごちそうさまも言わず、自分の部屋に入っちゃうんです。私は召し使いでしょうか?」と言っておられました。
そういう状況のなかで、いろいろやってみた結果、親御さんは「本人が動こうとしないんだからしかたがない」「待つしかないか」と腹をくくることになるわけです。

ところで親御さんは、よくカウンセラーなどから「もう少し待ってあげましょう」といわれることがあると思いますが、じゃあ、なぜ待たなければいけないのでしょうか。
ひと言でいえば、親は子どもの人生の代わりをやってあげることはできないからです。親が、子どもの代わりに学校に行って勉強したり、将来、何をやりたいか考えたり、さらには就職したり、恋をして結婚して子どもをつくったり……、そういうことを親が代わりにやってあげることは絶対にできません。
だから、これから先、自分の人生に何が待っているかわからないけれど、ぜんぶ自分でやっていくしかないんだと子ども自身が覚悟を決めるまで、親は待つしかないんです。 「待つ」ということの意味は、学校に行けるまで待つとか、本人が動き出すまで待つというよりも、子ども自身のなかで自分の人生を自分で背負う覚悟ができるまで待つ、ということなんだと私は思います。

お母さんが元気でいるためのポイント

では、家のなかで子どもの姿を見ることの多いお母さんが元気でいるためのポイントについて考えてみたいと思います。

1.夫のサポートを得る
なんといっても、ご主人のサポートは必要です。
たとえば、ご主人側のおじいちゃんやおばあちゃんが、「あの子が不登校になったのは、あんたの育て方が悪かったからだ」とお母さんを責めるケースがあります。しかも、ご主人は、そのことに対して何も反論してくれない。ひどいときは、ご主人も一緒になってお母さんを責める。そんな状況では、お母さんが元気でいられるわけがありません。

かといって、妙にものわかりのいいお父さんも困りものです。こういうお父さんは、お母さんに、「大丈夫。あいつは心配ないから、あんまりうるさく言わないで、とにかく待とう」とか言ったりします。
でも、お母さんにしてみれば、「何が大丈夫よ」「ろくに家にいないくせに、あの子のことがわかるわけないじゃない」「毎日子どもを見ていないから、そういうお気楽なことが言えるのよ」ということになります。

じゃあ、お父さんは、お母さんをサポートするために何をすればいいのか。
実は、お父さんにできることはあまりありません。お父さんにできるのは、せいぜいお母さんの話を聞いて、一緒に考え、一緒にため息をついたり、悩んだりすることくらいです。
でも、そうやってお母さんを孤立させないことが、お母さんを元気にさせる何よりの方法なのです。

お父さんに考えてほしいのは、自分が家にいない間、子どもの様子はどんな感じなのか。それを見て、お母さんはどんな思いで一日を過ごしているのか。そういうことに思いをめぐらせてほしいということです。そうすれば自然に、自分にも何かできることはないかという気持ちになるものです。
でも、結局は何もできずに、お母さんとふたりで「しかたないか」「待つしかないのかなぁ」と、お茶をすすったりしている。それでいいんです。

2.子どもを見ないようにする
不登校が長引くと、毎日、何も変わらない子どもを見ていることにうんざりしてきます。「少しはきのうと違うことをしたら?」とか、「ゲームばかりやって、よくあきないわね」とか、嫌みのひとつも言いたくなりませんか? 一日中だらだらゴロゴロしている姿を見ると、イライラして、こっちまで疲れてしまいます。

そういう状態になったとき、私はお母さんに「見ないようにしましょう」とアドバイスしています。家のなかにいて見ないようにするのは難しいので、たいていは「外に出るようにしましょう」と言います。
すると、多くのお母さんは、「それでは子どもを見捨てることになりませんか?」「私がいない間、あの子が何をしているかわからないから心配です」と不安そうな顔をしますが、それでも私は外に出ることをすすめます。

ちょっとした外出でもいいし、友だちと会うのでも、習い事でも、パートタイマーとして働くのでもかまいません。少なくともその間は子どもの姿を見ないでいられる。子どものことを忘れられる。そういう時間をもつことは、お母さんの元気を保つための、大切な秘訣のひとつといえます。

3.相談機関を利用する
お父さんとふたりで話し合ってもなかなか解決策や出口が見つからないときは、相談機関を利用するといいかもしれません。
そう思って相談機関に行ったら、「それはお母さんが甘やかしたからでしょ」とか、「それくらい、たいした問題じゃない」とか言われて、二度とあんなところに行くもんかと思っている方もいるかもしれません。

でも、医者と同じでセカンドオピニオンじゃないけれど、自分に合った相談機関や相談員(カウンセラー)にめぐりあえるまで、あちこち渡り歩いてもいいんじゃないでしょうか。ひとつの相談機関でイヤな思いをしたからあきらめるというのではなく、ぜひ、ほかの相談機関も試してみてください。
大切なのは、あの相談員と話していると元気になれるということ。そういう人がひとりいるだけで、親御さんの気持ちもだいぶ違ってきます。

不登校の子どもの親は、子どもが動き出すまでずっと待っているわけですが、待っている間も仕事とか家事とか近所づきあいとか、いろいろなことをやらなければなりません。子どものことだけ考えていればいいわけじゃない。そういうなかで、「これでいいのかな」「待っているだけでいいのかな」と不安になったときに、気軽に相談できる第三者を確保しておくことは、親御さんが元気でいるためにも必要なことなのです。

4.不登校の講演会や親の会などに参加する
今日のこのセミナーもそうですが、こうしたセミナーや講演会、親の会などに参加してみることも大切です。
最初は抵抗があるかもしれませんが、不登校が長期化すればするほど、親御さんは精神的にしんどくなってきて、こんな目にあうのは自分だけじゃないかと孤立した気持ちになりがちです。そんなとき、こういう会に参加して、同じ悩みをもつ人がほかにもたくさんいることを知ったり、互いの悩みを分かち合ったりすることは、大きな力になるはずです。

子どもの心のエネルギーをためるには?

最後に、不登校の子どもはエネルギー切れの状態にあるとか、エネルギーがたまるまで待つことが大事とかいわれますが、では、どうしたら子どもたちのエネルギーがたまるのかについて、ポイントをお話ししたいと思います。
私は、子どもたちがもっている「心のエネルギー」というものは、外からは注入できないものではないかと思っています。心のエネルギーは、いわば自家発電のようなもので、外からもらうというよりは、自分のなかでわき立つものなのではないでしょうか。

そして、不登校の子どもたちは、この自家発電しているエネルギーを前に進んでいくためには使えずに、別のところで消費している状態と考えることができます。
私が会った不登校の子どもたちはみな、自家発電で作り出しているエネルギーと、消費するエネルギーのバランスがくずれて、消費するエネルギーのほうがどんどん多くなってしまった状態にあるようにみえました。

では、この子たちはどういうところにエネルギーを使っているのかというと、たとえば、ある課題を与えられて答えがなかなか見つからなかったり、苦しい場面に出くわして出口が見つからなかったり、緊張を強いられる場面ですごく気をつかったりすると、それだけで疲れてしまうことがありますよね。
それと同じで不登校の子どもたちは、親からみれば、ただ好き勝手なことをして遊んでいるように見えますが、実は疲れきっていてエネルギー不足の状態におちいっているのです。

人の目をとても気にしたり、電話の音にビクビクしたり、家に誰か来ると部屋にこもってしまう子は多いと思いますが、そういう毎日を過ごしているだけで、ずいぶん疲れるだろうなあと思います。
私の知っているケースでは、お父さんが帰ってくると自分の部屋に閉じこもってしまい、お父さんが寝たのを確認してから、そーっとトイレに行くという子もいました。その子にとって、お父さんはものすごくエネルギーを使う存在であり、ただ家にいるだけで疲れてしまうことになります。

エネルギーがたまってくると、どんな変化があらわれるか?

そういう状態を家族が理解してくれるようになり、家の中でよけいなエネルギーを使わずにすむようになると、その子のなかに少しずつエネルギーがたまってきます。
すると、子どもは、「ひまだなぁ」とか「たいくつだ~」とか言い始めたりします。そういう言葉が出てきたら、少しエネルギーがたまってきて、何かやりたいという気持ちが出てきたんだなと考えるといいと思います。

また、そういう段階になると、子どもは、夜中にCDやDVD、本などを扱っている店やレンタルショップなどにドライブがてら誘うと、一緒についてきたりします。でも、それはあくまでもCDや本が目的であって、親と話したいからではありません。
だから、親御さんも無理に話そうとせず、お子さんにも話はしなくてかまわないという姿勢をみせて“逃げ道”をつくってあげるといいでしょう。すると、そういう習慣が定着してきて、そのうち、「ほしいCDがあるので、お店までつれてって」と言ったりします。こういう小さなことの積み重ねが、少しずつ子どもが動きだすことにつながっていくのです。

そういうことを続けているうちに、次の段階がくると、「勉強やらないとなー」とか「学校に戻っても授業についていけるかな?」とか、学校や勉強に関する言葉が子どもの口から出てきたりします。親御さんとしては、「いよいよ来たか!」という感じかもしれません。
しかし、こういうときに親が意気込んで、「家庭教師を頼もうか?」「塾に行ってみる?」といった対応をすると、見事にしっぺ返しをくらいます。

こんなときは、勉強をさせるための具体的な提案をするのではなく、「そうかぁ、勉強のことが気になっているんだね」と、その子の今の気持ちを受けとめてあげるだけにとどめたほうがいいでしょう。「一日も早く勉強の遅れを取り戻さなきゃ」という親の思いは、グッとこらえてください。
そうすると、さっきまでヘッドフォンで音楽を聴いていたと思ったら、いつのまにか英会話のカセットを聞いていたり、テレビのニュースを見ていてわからないことがあると、「あれって、どういうこと?」と質問してきたりします。

不登校の子どもたちは、毎日、何もせずゴロゴロしているように見えても、実は心のなかで、「こんな状態ではダメだ」「なんとかしなければ」と思いつづけています。
でも、親から「こんな生活を続けていて、どうするつもりなの!?」「なんとかしなさいよ!」と言われたら、それは自分でも十二分にわかっているだけにむかつくし、それができないから悩んでいるわけで、答えようがないのです。

だから、まずはできるだけ余計なエネルギーを消費しないですむような環境を整えてあげて、少しエネルギーがたまったら、いきなり「勉強」「学校」につなげようとするのではなく、ゲームでもマンガでも音楽でも、自分のやりたいこと、好きなことから始めていけばいいんじゃないでしょうか。そうやって少しずつハードルを上げていくようにするのが、いちばんいい方法ではないかと思います。

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